電気回路理論/回路の行列表示と節点解析

この節ではグラフ理論の基礎で学んだ事柄を用いて、電気回路の行列表示について説明し、また節点解析法との関連について述べる。

目次

枝電流と接続行列

回路のある節点に接続する枝の集合はひとつのカットセットをなす。なぜならば、回路をその節点とその他の部分とに分離することができるからである。さらに、KCLよりこのカットセットの枝に流れる電流(枝電流)の和は0となる。

回路図が無いため、しばらく記号で代用します

     A     →i1       B
  ┌────┬────R1────┐
 +│     +│    + v1 -   +│ 
v ↑i    v2 R2↓i2       v3 R3↓i3
 -│     -│          -│
  └────┴─────────┘
          C

たとえば上図のπ形回路で考えてみよう。この回路には3つの節点A、B、Cがある。ここで各節点に接続する枝は1つのカットセットをなし、各カットセットに流れる電流の和は0である。すなわち各節点にKCLを適用すれば、節点から流れ出る電流を正、節点へ流れ込む電流を負として、節点A: i1+i2i=0

{\displaystyle i_{1}+i_{2}-i=0}

節点B: i3i1=0

{\displaystyle i_{3}-i_{1}=0}

節点C: ii2i3=0

{\displaystyle i-i_{2}-i_{3}=0}

これを行列を用いて書き直せば、次のように書くことができる。(111001011011)(ii1i2i3)=O

{\displaystyle {\begin{pmatrix}-1&1&1&0\\0&-1&0&1\\1&0&-1&-1\end{pmatrix}}{\begin{pmatrix}i\\i_{1}\\i_{2}\\i_{3}\end{pmatrix}}=O}

左辺の行列A=(111001011011)

{\displaystyle A={\begin{pmatrix}-1&1&1&0\\0&-1&0&1\\1&0&-1&-1\end{pmatrix}}}

接続行列(incidence matrix)という。接続行列の各行が節点に、各列が枝に対応し、ij列の成分はj番目の枝がi番目の節点に接続している様子を表す。0であれば接続しておらず、1ならば電流が流れ出る向きに、-1ならば電流が流れ込む向きに接続していることを示している。また、ベクトルib=(ii1i2i3)

{\displaystyle \mathbf {i} _{b}={\begin{pmatrix}i\\i_{1}\\i_{2}\\i_{3}\end{pmatrix}}}

を枝電流ベクトルという。

ここで、接続行列の各行を加えると0になることに注意する。これは、この行列の階数が3でない、すなわち先に立式した3つの式が独立ではないことを示している。しかし、Aの第3行を消去した行列A=(11100101)

{\displaystyle A'={\begin{pmatrix}-1&1&1&0\\0&-1&0&1\end{pmatrix}}}

はこれ以上基本変形を施しても第2行あるいは第1行を消去できないので、この行列の階数は2である。すなわち、3本の式のうち2本が独立であり、2本の方程式のみを考えればよいことが分かる。このように接続行列から1行を消去した行列を既約接続行列(reduced incidence matrix)という。

一般に節点がn個ある場合、n個のカットセットを考えてその全てに対してKCLを適用することができる。しかし、それによって立式されるn個の式は独立ではなく、任意の1つの式を省いたn-1個の式が独立となる。また、接続行列の階数はn-1となる。

そこで1つの節点を基準節点(datum node)とし、残りのn-1個の節点に対してKCLを適用させればよい。例えば節点Cを基準にすれば、節点Aと節点Bの2式のみ考えればよい。これは節点解析法においても重要な点である。

枝電圧と接続行列

節点電位についてはどうだろうか。各節点の電位をva,vb,vc{\displaystyle v_{a},v_{b},v_{c}}とすると、節点電位と枝電圧の関係として、v=va+vc

{\displaystyle v=-v_{a}+v_{c}}

v1=vavb

{\displaystyle v_{1}=v_{a}-v_{b}}

v2=vavc

{\displaystyle v_{2}=v_{a}-v_{c}}

v3=vbvc

{\displaystyle v_{3}=v_{b}-v_{c}}

となる。これを行列を用いて書き表せば、(vv1v2v3)=(101110101011)(vavbvc)

{\displaystyle {\begin{pmatrix}v\\v_{1}\\v_{2}\\v_{3}\end{pmatrix}}={\begin{pmatrix}-1&0&1\\1&-1&0\\1&0&-1\\0&1&-1\end{pmatrix}}{\begin{pmatrix}v_{a}\\v_{b}\\v_{c}\end{pmatrix}}}

と書くことができる。右辺の係数行列は先に見た接続行列Aの転置行列となっている。ただし先に見たとおり、Aは1つ余計な行を含んでいる。そこでこの場合も節点Cを基準節点にとり、既約行列を用いて、(vv1v2v3)=(10111001)(vavb)

{\displaystyle {\begin{pmatrix}v\\v_{1}\\v_{2}\\v_{3}\end{pmatrix}}={\begin{pmatrix}-1&0&\\1&-1&\\1&0&\\0&1&\end{pmatrix}}{\begin{pmatrix}v_{a}\\v_{b}\end{pmatrix}}}

と書いてよく、このときこの式はvb=ATvn

{\displaystyle \mathbf {v} _{b}=A'^{T}\mathbf {v} _{n}}

と書くことができる。行列vb{\displaystyle \mathbf {v} _{b}}を枝電圧ベクトルといい、vn{\displaystyle \mathbf {v} _{n}}は節点電圧ベクトルである。

節点解析法

電気回路の各枝は、次のように一般化して書くことができる。

回路図が無いため、しばらく記号で代用します

     isk
ik┌───←───┐
→│    + - │
─┴─Rk─-─vsk─┴─
+         vk         -

k番目の枝に抵抗Rk{\displaystyle R_{k}}、電流源isk{\displaystyle i_{sk}}、電圧源vsk{\displaystyle v_{sk}}があるとし、このときの枝電流をik{\displaystyle i_{k}}、枝電圧をvk{\displaystyle v_{k}}とする。もし枝に電源が含まれていなければこれらの値を0にとればよいし、あるいはたとえば電圧源のみで構成されているのであれば抵抗を0として考えればよい。

さて、この枝はノートンの定理によって次の等価電流源に置き換えることができる。

回路図が無いため、しばらく記号で代用します

     jsk
ik┌───←───┐
→│       │
─┴───Rk───┴─
+         vk         -

電源を除去した時の内部抵抗はRk{\displaystyle R_{k}}のみであるから、ノートン等価電流源の内部抵抗はRk{\displaystyle R_{k}}である。また等価電流源の電流をjsk{\displaystyle j_{sk}}とすると、これは元の枝の両端を短絡した時に流れる電流に等しいから、jsk=iskvskRk

{\displaystyle j_{sk}=i_{sk}-{\frac {v_{sk}}{R_{k}}}}

となる。

このモデルによって、枝電流を計算することができる。枝電流ik{\displaystyle i_{k}}ik=vkRk+jsk=vkRk+iskvskRk

{\displaystyle i_{k}={\frac {v_{k}}{R_{k}}}+j_{sk}={\frac {v_{k}}{R_{k}}}+i_{sk}-{\frac {v_{sk}}{R_{k}}}}

となる。

さて、これを用いると、前述の枝電流ベクトルib{\displaystyle \mathbf {i} _{b}}ib=Gvb+isbGvsb

{\displaystyle \mathbf {i} _{b}=G\mathbf {v} _{b}+\mathbf {i} _{sb}-G\mathbf {v} _{sb}}

  (1)

と書くことができる。ここでGG=(G1G2Gn)=(1R11R21Rn)

{\displaystyle G={\begin{pmatrix}G_{1}&&&\\&G_{2}&&\\&&\ddots &\\&&&G_{n}\end{pmatrix}}={\begin{pmatrix}{\frac {1}{R_{1}}}&&&\\&{\frac {1}{R_{2}}}&&\\&&\ddots &\\&&&{\frac {1}{R_{n}}}\end{pmatrix}}}

である。また、isb{\displaystyle \mathbf {i} _{sb}}vsb{\displaystyle \mathbf {v} _{sb}}それぞれ枝にある電流源と電圧源を縦に並べたベクトルである。

枝電流と接続行列で見たように、枝電流と接続行列との間にはAib=O

{\displaystyle A\mathbf {i} _{b}=O}

の関係がある。したがって、(1)式よりAGvb+AisbAGvsb=O

{\displaystyle AG\mathbf {v} _{b}+A\mathbf {i} _{sb}-AG\mathbf {v} _{sb}=O}

  (2)

が導かれる。

枝電圧と接続行列で見たように、枝電圧と節点電位とはvb=ATvn

{\displaystyle \mathbf {v} _{b}=A^{T}\mathbf {v} _{n}}

の関係があるから、この式の両辺を入れ替えて左からAGをかけると、AGATvn=AGvb

{\displaystyle AGA^{T}\mathbf {v} _{n}=AG\mathbf {v} _{b}}

となり、(2)式とあわせると、AGATvn=AGvsbAisb

{\displaystyle AGA^{T}\mathbf {v} _{n}=AG\mathbf {v} _{sb}-A\mathbf {i} _{sb}}

となる。ふつうはAGAT=Yn{\displaystyle AGA^{T}=Y_{n}}とおいて、Ynvn=AGvsbAisb

{\displaystyle Y_{n}\mathbf {v} _{n}=AG\mathbf {v} _{sb}-A\mathbf {i} _{sb}}

とする。さらにjsb=AGvsbAisb

{\displaystyle \mathbf {j} _{sb}=AG\mathbf {v} _{sb}-A\mathbf {i} _{sb}}

と書くことにすれば、この方程式はYnvn=jsb

{\displaystyle Y_{n}\mathbf {v} _{n}=\mathbf {j} _{sb}}

と書くことができる。これを節点方程式(node equations)という。いまAは既約接続行列を用いている。Yn{\displaystyle Y_{n}}はコンダクタンス行列と呼ばれるn-1次の正方行列であり、またjsb{\displaystyle \mathbf {j} _{sb}}は節点電流源ベクトルと呼ばれるn-1次のベクトルである。

節点電流源ベクトルは各節点へ流れ込む電流源を表している。ただし、節点へ流れ込む方向を正、流れ出る方向が負であることに注意する。また、コンダクタンス行列は次のように書かれる。

  • 対角成分はk番目の節点に接続するすべての枝のコンダクタンスの和となる。これを自己コンダクタンス(self-conductance)という。
  • それ以外の成分はk番目の節点とl番目の節点を結ぶ枝にあるコンダクタンスの和に負の符号をつけたものになる。これを相互コンダクタンス(mutual-conductance)という。

したがって前節で見たようにして機械的に節点方程式を立てることができる。

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