高校化学 化学反応とエンタルピー

このページでは、いわゆる熱化学の内容について扱う。熱力学と関連が深い分野なので、物理基礎の既習を前提とする。必要があれば高校物理 熱力学も参照。

化学反応が起こると、多くの場合反応物と生成物の化学エネルギーの差により熱の出入りが起こる。以下では、この現象を定量的に考える。

目次

化学反応と熱

化学反応が起こり、人間の観察の対象となる部分をという。系の外側を外界という。

すると、熱力学第一法則ΔU=QW{\displaystyle \Delta U=Q-W}において、ΔUは内部エネルギーの変化量、Qは系が外界から受け取った熱、Wは系が外界にした仕事を表すと言える。

定積変化ではW=0となるため、熱力学第一法則よりΔU=Qである。つまり、定積の系では反応に伴う熱の出入りの量は内部エネルギーの変化量に等しい。 しかし、化学反応を定積条件下で行うことはまずないため、この場合を考えるのは物理学の範疇になる。


定圧変化を考える前に、以下のようにエンタルピーを定義する。

エンタルピー

Uを系の内部エネルギー、Pを系の内圧、Vを系の体積としたとき、H=U+PV{\displaystyle H=U+PV}エンタルピー(熱含量、焓)という。単位はジュール(J)である。


すると、定圧変化におけるエンタルピー変化は、ΔH=(U1+PV1)(U0+PV0)=U1U0+P(V1V0)=ΔU+PΔV{\displaystyle \Delta H=(U_{1}+PV_{1})-(U_{0}+PV_{0})=U_{1}-U_{0}+P(V_{1}-V_{0})=\Delta U+P\Delta V}となる。定圧変化では体積が変化するので、系は外界に仕事をする。このときの仕事WはPΔVに等しい。故に、熱力学第一法則よりΔH=ΔU+W=Q{\displaystyle \Delta H=\Delta U+W=Q}となる。

ここから、定圧の系において反応に伴う熱の出入りの量はエンタルピー変化に等しいということがわかる(逆にいうと、そうなるようにエンタルピーを上手く定義したと言える)。エンタルピーは物質が持つエネルギーを表す物理量の一つである。

一般に、物質はエンタルピーが低いほど安定である。

反応エンタルピー

定圧条件下で化学反応により放出・吸収される熱量を反応エンタルピーといい、ΔHで表す。

反応エンタルピー = (生成物が持つエンタルピー) – (反応物が持つエンタルピー)である。


系の熱を外界に放出しながら進む反応を発熱反応、外界の熱を系に吸収しながら進む反応を吸熱反応という。

発熱反応では系の熱を外界に放出するので、系が持つエネルギーすなわちエンタルピーは減少する。つまり、発熱反応ではΔHは負である。 吸熱反応では外界の熱を系に吸収するので、系が持つエンタルピーは増加する。つまり、吸熱反応ではΔHは正である。


化学反応に伴うエンタルピー変化を表すとき、以下の2点に注意する。①物質の種類が同じでも、状態が違えばエンタルピーは異なる。物質の後ろに、固体ならば(固)または(s)、液体ならば(液)または(l)、気体ならば(気)または(g)と付ける。※sはsolid、lはliquid、gはgasの略である。例)CO2(g)、H2O(液)同素体を持つ物質は括弧の中に同素体名を書いて区別する。例)C(黒鉛)、C(ダイヤモンド)、S(斜方硫黄)②注目する物質の係数を1とする。注目する物質の物質量を1molとみなして考える。係数が分数になっても構わない。


この2点を踏まえると、1molの水素が完全燃焼して液体の水が生成し、286kJの熱量が放出された反応は以下のように書ける。

[1] 化学反応式を書く2H2+O22H2O

{\displaystyle {2\,\mathrm {H} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}{}+{}\mathrm {O} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}{}\mathrel {\longrightarrow } {}2\,\mathrm {H} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}\mathrm {O} }}

[2] 着目する物質の係数を1にするH2+12O2H2O

{\displaystyle {\mathrm {H} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}{}+{}{\mathchoice {\textstyle {\frac {1}{2}}}{\frac {1}{2}}{\frac {1}{2}}{\frac {1}{2}}}\,\mathrm {O} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}{}\mathrel {\longrightarrow } {}\mathrm {H} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}\mathrm {O} }}

[3] 物質の状態とエンタルピー変化を付記する。H2(s)+12O2(s)H2O(l)

{\displaystyle {\mathrm {H} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}{\mskip {2mu}}(\mathrm {s} ){}+{}{\mathchoice {\textstyle {\frac {1}{2}}}{\frac {1}{2}}{\frac {1}{2}}{\frac {1}{2}}}\,\mathrm {O} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}{\mskip {2mu}}(\mathrm {s} ){}\mathrel {\longrightarrow } {}\mathrm {H} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}\mathrm {O} {\mskip {2mu}}(\mathrm {l} )}}

ΔH=286kJ

{\displaystyle \quad \Delta H=-286\,\mathrm {kJ} }

このような反応式を、エンタルピー変化を付した反応式という。


なお、エンタルピー変化を付した反応式は、現実には起こり得ない反応も多い。起こり得ない理由は後述する。

反応エンタルピーの種類

反応エンタルピーは、反応の種類によっては固有の名称で呼ばれるものもある。 それらは着目する物質1molあたりの熱量(単位:kJ/mol)で表されるが、反応式の中では単位のうち/molを省略する燃焼エンタルピー

物質1molが完全燃焼するときの反応エンタルピー。例)CO(g)+12O2(g)CO2(g)

{\displaystyle {\mathrm {CO} {\mskip {2mu}}(\mathrm {g} ){}+{}{\mathchoice {\textstyle {\frac {1}{2}}}{\frac {1}{2}}{\frac {1}{2}}{\frac {1}{2}}}\,\mathrm {O} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}{\mskip {2mu}}(\mathrm {g} ){}\mathrel {\longrightarrow } {}\mathrm {CO} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}{\mskip {2mu}}(\mathrm {g} )}}

ΔH=283kJ

{\displaystyle \quad \Delta H=-283\,\mathrm {kJ} }

生成エンタルピー

化合物1molを構成元素の単体から生成するときの反応エンタルピー。※単体の生成エンタルピーは0とし、同素体が存在する元素は25℃で最も安定な同素体から生成する反応を用いる。例)12N2(g)+12O2(g)NO(g)

{\displaystyle {{\mathchoice {\textstyle {\frac {1}{2}}}{\frac {1}{2}}{\frac {1}{2}}{\frac {1}{2}}}\,\mathrm {N} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}{\mskip {2mu}}(\mathrm {g} ){}+{}{\mathchoice {\textstyle {\frac {1}{2}}}{\frac {1}{2}}{\frac {1}{2}}{\frac {1}{2}}}\,\mathrm {O} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}{\mskip {2mu}}(\mathrm {g} ){}\mathrel {\longrightarrow } {}\mathrm {NO} {\mskip {2mu}}(\mathrm {g} )}}

ΔH=90.3kJ

{\displaystyle \quad \Delta H=-90.3\,\mathrm {kJ} }

溶解エンタルピー

溶質1molが多量の溶媒に溶解するときの反応エンタルピー。溶媒が水の場合、aqという記号を用いる。※aqはaquaの略である。例)NaOH(S)+aqNaOHaq

{\displaystyle {\mathrm {NaOH} (\mathrm {S} ){}+{}\mathrm {aq} {}\mathrel {\longrightarrow } {}\mathrm {NaOHaq} }}

ΔH=44.5kJ

{\displaystyle \quad \Delta H=-44.5\,\mathrm {kJ} }

なお、化学式にaqをつけたものは、その物質が水溶液の状態であることを表す。中和エンタルピー

酸と塩基が反応し、1molが生成するときの反応エンタルピー。例)H+aq+OHaqH2O(l)

{\displaystyle {\mathrm {H} {\vphantom {A}}^{+}~\mathrm {aq} {}+{}\mathrm {OH} {\vphantom {A}}^{-}~\mathrm {aq} {}\mathrel {\longrightarrow } {}\mathrm {H} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}\mathrm {O} {\mskip {2mu}}(\mathrm {l} )}}

ΔH=56.5kJ

{\displaystyle \quad \Delta H=56.5\,\mathrm {kJ} }

状態変化とエンタルピー

物質の状態変化においても熱の出入りが発生するため、エンタルピー変化を用いて表せる。便宜上、反応エンタルピーの一種に分類する。名前は、状態変化の名(融解、蒸発、昇華、凝固、凝縮、凝華)にエンタルピーをくっつければよい。例)H2O(g)H2O(l)

{\displaystyle {\mathrm {H} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}\mathrm {O} {\mskip {2mu}}(\mathrm {g} ){}\mathrel {\longrightarrow } {}\mathrm {H} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}\mathrm {O} {\mskip {2mu}}(\mathrm {l} )}}

ΔH=41kJ

{\displaystyle \quad \Delta H=-41\,\mathrm {kJ} }

なお、融解エンタルピーと凝固エンタルピー、蒸発エンタルピーと凝縮エンタルピー、昇華エンタルピーと凝華エンタルピーはそれぞれ逆反応の関係にあるので、お互いに反応式の両辺を入れ替えてΔHの符号を反転させれば一致する。

ヘスの法則

図のように、固体の水酸化ナトリウムから塩化ナトリウムを生成する反応には2つの経路があるが、どちらの経路で合成を行っても、出入りする熱量(反応エンタルピー)の総和は同じである。

化学反応の際のエンタルピー変化は反応前後の物質の種類・状態で決まり、途中の反応経路や反応方法に依存しない。このことをヘスの法則または総熱量保存則という。

ヘスの法則を応用することで、複数の反応式から未知の反応エンタルピーを求めることができる。応用1:反応式の連立

以下の反応の反応エンタルピーQ[kJ/mol]を求めたい。C(graphite)+12O2(g)CO(g)

{\displaystyle {\mathrm {C} (\mathrm {graphite} ){}+{}{\mathchoice {\textstyle {\frac {1}{2}}}{\frac {1}{2}}{\frac {1}{2}}{\frac {1}{2}}}\,\mathrm {O} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}{\mskip {2mu}}(\mathrm {g} ){}\mathrel {\longrightarrow } {}\mathrm {CO} {\mskip {2mu}}(\mathrm {g} )}}

ΔH=QkJ

{\displaystyle \quad \Delta H=Q\,\mathrm {kJ} }

・・・Ⅰ

黒鉛、一酸化炭素の燃焼エンタルピーは以下と判明している。C(graphite)+O2(g)CO2(g)

{\displaystyle {\mathrm {C} (\mathrm {graphite} ){}+{}\mathrm {O} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}{\mskip {2mu}}(\mathrm {g} ){}\mathrel {\longrightarrow } {}\mathrm {CO} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}{\mskip {2mu}}(\mathrm {g} )}}

ΔH=394kJ

{\displaystyle \quad \Delta H=-394\,\mathrm {kJ} }

・・・ⅡCO(g)+12O2CO2(g)

{\displaystyle {\mathrm {CO} {\mskip {2mu}}(\mathrm {g} ){}+{}{\mathchoice {\textstyle {\frac {1}{2}}}{\frac {1}{2}}{\frac {1}{2}}{\frac {1}{2}}}\,\mathrm {O} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}{}\mathrel {\longrightarrow } {}\mathrm {CO} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}{\mskip {2mu}}(\mathrm {g} )}}

ΔH=283kJ

{\displaystyle \quad \Delta H=-283\,\mathrm {kJ} }

・・・Ⅲ

ヘスの法則より、ⅡとⅠ+Ⅲはエンタルピー変化が等しいので、ⅡからⅢを引けばⅠを求められる。C(graphite)+O2(g)CO(g)12O2CO2(g)CO2(g)

{\displaystyle {\mathrm {C} (\mathrm {graphite} ){}+{}\mathrm {O} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}{\mskip {2mu}}(\mathrm {g} ){}-{}\mathrm {CO} {\mskip {2mu}}(\mathrm {g} ){}-{}{\mathchoice {\textstyle {\frac {1}{2}}}{\frac {1}{2}}{\frac {1}{2}}{\frac {1}{2}}}\,\mathrm {O} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}{}\mathrel {\longrightarrow } {}\mathrm {CO} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}{\mskip {2mu}}(\mathrm {g} ){}-{}\mathrm {CO} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}{\mskip {2mu}}(\mathrm {g} )}}

ΔH=394(283)kJ

{\displaystyle \quad \Delta H=-394-(-283)\,\mathrm {kJ} }

C(graphite)+12O2(g)CO(g)

{\displaystyle {\mathrm {C} (\mathrm {graphite} ){}+{}{\mathchoice {\textstyle {\frac {1}{2}}}{\frac {1}{2}}{\frac {1}{2}}{\frac {1}{2}}}\,\mathrm {O} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}{\mskip {2mu}}(\mathrm {g} ){}\mathrel {\longrightarrow } {}\mathrm {CO} {\mskip {2mu}}(\mathrm {g} )}}

ΔH=111kJ

{\displaystyle \quad \Delta H=-111\,\mathrm {kJ} }

Q=111[kJ/mol]

{\displaystyle \therefore Q=-111[\mathrm {kJ/mol} ]}

※化学反応式で引き算が残ったら移項する。応用2:エンタルピー図の利用

H2Oの凝集エンタルピーを求める。

エンタルピー変化を表した図をエンタルピー図という。

エンタルピー図を利用すると、未知の反応エンタルピーを視覚的に求めることができる。H2(g)+12O2(g)H2O(l)

{\displaystyle {\mathrm {H} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}{\mskip {2mu}}(\mathrm {g} ){}+{}{\mathchoice {\textstyle {\frac {1}{2}}}{\frac {1}{2}}{\frac {1}{2}}{\frac {1}{2}}}\,\mathrm {O} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}{\mskip {2mu}}(\mathrm {g} ){}\mathrel {\longrightarrow } {}\mathrm {H} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}\mathrm {O} {\mskip {2mu}}(\mathrm {l} )}}

ΔH=286kJ

{\displaystyle \quad \Delta H=-286\,\mathrm {kJ} }

H2(g)+12O2(g)H2O(g)

{\displaystyle {\mathrm {H} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}{\mskip {2mu}}(\mathrm {g} ){}+{}{\mathchoice {\textstyle {\frac {1}{2}}}{\frac {1}{2}}{\frac {1}{2}}{\frac {1}{2}}}\,\mathrm {O} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}{\mskip {2mu}}(\mathrm {g} ){}\mathrel {\longrightarrow } {}\mathrm {H} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}\mathrm {O} {\mskip {2mu}}(\mathrm {g} )}}

ΔH=242kJ

{\displaystyle \quad \Delta H=-242\,\mathrm {kJ} }


右のエンタルピー図から、水の凝集エンタルピーQはQ=44[kJ/mol]{\displaystyle Q=-44[\mathrm {kJ/mol} ]}と求まる。

なお、単体や完全燃焼化合物を基準にするとエンタルピー図を書きやすいが、燃焼性生物は低エンタルピー、単体は高エンタルピーとなることが多い。応用3:生成エンタルピーと反応エンタルピーの関係

エンタルピー図を書くことによって、次の関係がわかる。反応エンタルピー = (生成物の生成エンタルピー) – (反応物の生成エンタルピー)

当然、この関係を利用して反応エンタルピーを求めることもできる。応用4:結合エンタルピー

分子内の1mol(602214076000000000000000本)の共有結合を切断して気体状(ばらばら状態)の原子にするために必要なエネルギーを、その共有結合の結合エンタルピー結合エネルギー)という。結合を切断するためにエネルギーが必要になるため、ΔHは必ずである。例)HH(g)2H(g)

{\displaystyle {\mathrm {H} {-}\mathrm {H} {\mskip {2mu}}(\mathrm {g} ){}\mathrel {\longrightarrow } {}2\,\mathrm {H} {\mskip {2mu}}(\mathrm {g} )}}

ΔH=436kJ

{\displaystyle \quad \Delta H=436\,\mathrm {kJ} }

HH{\displaystyle {\mathrm {H} {-}\mathrm {H} }}H2{\displaystyle {\mathrm {H} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}}}のままで書いても良い。

エンタルピー図を書くことによって、以下の関係がわかる。反応エンタルピー = (反応物の結合エンタルピー) – (生成物の結合エンタルピー)応用5:格子エンタルピー(発展)

1molのイオンからなるイオン結晶のイオン結合を切断して気体状のイオンにするのに必要なエネルギーを、そのイオン結合の格子エンタルピー(格子エネルギー)という。格子エンタルピーは、そのイオン結晶が安定かどうかの指標になる。

直接的に求めることは不可能だが、ヘスの法則を利用して間接的に求めることはできる。

  • 例題

NaCl(s)の生成エンタルピーを-411[kJ/mol]、NaCl(s)の昇華エンタルピーを92[kJ/mol]、Cl2の結合エンタルピーを243[kJ/mol]、Na(g)のイオン化エネルギーを496[kJ/mol]、Cl(g)の電気親和力を-349[kJ/mol]とする。Na(s)の格子エンタルピーQ[kJ/mol]を求めよ。

  • 解答

それぞれの反応エンタルピーを付した化学反応式は以下のようになる。①Na(s)+12Cl2(g)NaCl(s)

{\displaystyle {\mathrm {Na} {\mskip {2mu}}(\mathrm {s} ){}+{}{\mathchoice {\textstyle {\frac {1}{2}}}{\frac {1}{2}}{\frac {1}{2}}{\frac {1}{2}}}\,\mathrm {Cl} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}{\mskip {2mu}}(\mathrm {g} ){}\mathrel {\longrightarrow } {}\mathrm {NaCl} {\mskip {2mu}}(\mathrm {s} )}}

ΔH=41kJ

{\displaystyle \quad \Delta H=-41\,\mathrm {kJ} }

Na(s)Na(g)

{\displaystyle {\mathrm {Na} {\mskip {2mu}}(\mathrm {s} ){}\mathrel {\longrightarrow } {}\mathrm {Na} {\mskip {2mu}}(\mathrm {g} )}}

ΔH=92kJ

{\displaystyle \quad \Delta H=92\,\mathrm {kJ} }

Cl2(g)2Cl(g)

{\displaystyle {\mathrm {Cl} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}{\mskip {2mu}}(\mathrm {g} ){}\mathrel {\longrightarrow } {}2\,\mathrm {Cl} {\mskip {2mu}}(\mathrm {g} )}}

ΔH=243kJ

{\displaystyle \quad \Delta H=243\,\mathrm {kJ} }

Na(g)Na+(g)+e

{\displaystyle {\mathrm {Na} {\mskip {2mu}}(\mathrm {g} ){}\mathrel {\longrightarrow } {}\mathrm {Na} {\vphantom {A}}^{+}{\mskip {2mu}}(\mathrm {g} ){}+{}\mathrm {e} {\vphantom {A}}^{-}}}

ΔH=496kJ

{\displaystyle \quad \Delta H=496\,\mathrm {kJ} }

Cl(g)+eCl(g)

{\displaystyle {\mathrm {Cl} {\mskip {2mu}}(\mathrm {g} ){}+{}\mathrm {e} {\vphantom {A}}^{-}{}\mathrel {\longrightarrow } {}\mathrm {Cl} {\vphantom {A}}^{-}{\mskip {2mu}}(\mathrm {g} )}}

ΔH=349kJ

{\displaystyle \quad \Delta H=-349\,\mathrm {kJ} }

NaCl(s)Na+(g)+Cl(g)

{\displaystyle {\mathrm {NaCl} {\mskip {2mu}}(\mathrm {s} ){}\mathrel {\longrightarrow } {}\mathrm {Na} {\vphantom {A}}^{+}{\mskip {2mu}}(\mathrm {g} ){}+{}\mathrm {Cl} {\vphantom {A}}^{-}{\mskip {2mu}}(\mathrm {g} )}}

ΔH=QkJ

{\displaystyle \quad \Delta H=Q\,\mathrm {kJ} }

エンタルピー図を書くと、ヘスの法則より-①+②+1/2 ③+④=-⑤+⑥がわかる。 ΔHの部分にのみ着目して計算すると、(411)+92+2432+496=(349)+Q{\displaystyle -(-411)+92+{\frac {243}{2}}+496=-(-349)+Q}すなわちQ=411+92+2432+496349=771.5{\displaystyle Q=411+92+{\frac {243}{2}}+496-349=771.5}であり、有効数字を考慮するとQ=772[kJ/mol]{\displaystyle Q=772[\mathrm {kJ/mol} ]}と求まる。反応エンタルピーの測定

反応エンタルピーは、反応による熱の吸収・放出を測定することにより求められる。測定には水温変化を利用する。

水溶液の質量をm[kg]、温度変化をΔT[K]、比熱をc[J/(g・K)]とすると、発熱量(吸熱量)QはQ=mcΔT{\displaystyle Q=mc\Delta T}である。反応エンタルピーの絶対値はQを物質量で割れば求まる。反応エンタルピーの符号は発熱反応か吸熱反応華どうかで判断する。

化学反応が自発的に進む要因

エントロピー

一般に、物質はエンタルピーが低い方が安定なので、発熱反応では反応が自発的に進みやすい。しかし、エンタルピーが高くなる反応なのにも拘らず、自発的に進む吸熱反応は私たちの身の回りに溢れている。氷の溶解がその最たる例である。


このように、エンタルピーだけでは反応が自発的に進むかどうかを判断することはできない。そこで、以下のような量を考える。

エントロピー

熱源の温度をT、熱源との熱の出入りの量をQとしたとき、S=QT{\displaystyle S={\frac {Q}{T}}}エントロピー(内転効率、熵)という。単位はジュール毎ケルビン(J/K)である。


エントロピーは系の乱雑さを表す物理量であり、可逆な熱機関(熱効率が理論最大値をとる熱機関)では保存される。

熱力学第二法則より、熱は高温物体から低温物体に伝わっていく。この過程において、低温物体のエントロピーは増大する。一般に、孤立系、及び断熱系において不可逆変化が生じた場合、その系のエントロピーは増大する。これをエントロピー増大則という。例えば、溶解などの拡散する変化はエンタルピー増大則に従ったものである。

これを踏まえると、化学反応が自発的に反応するかどうかは「エンタルピー変化による安定化の度合い」と「エントロピー変化による乱雑さ増大の度合い」の兼ね合いで判断することができる。ギブスの自由エネルギー

系の乱雑さが増大する度合いは、熱運動が激しいほど大きくなる。よって、系の乱雑さはエントロピーと絶対温度の積で表される。


そこで、乱雑さとエンタルピーによる安定化を同時に考えるため、以下のような量を導入する。

ギブスの自由エネルギー

系のエンタルピーをH、系のエントロピーをS、系の内部の絶対温度をTとしたとき、G=HTS{\displaystyle G=H-TS}ギブスの自由エネルギーという。単位はジュール(J)である。


Hが小さいほど安定、Sが大きいほど安定なので、Gが小さいほど安定である。故に、自由エネルギー変化ΔGがならば、安定な方向に反応が進むので自発的に反応する。ΔGが0ならば化学平衡の状態にある。ΔGがならば自発的に反応せず、逆反応が進む。なお、エンタルピー変化・エントロピー変化ともに負ならば低温条件で反応が進行し、ともに正ならば高温条件で反応が進行する。


エンタルピー変化を付した反応式上では成り立っても現実に起こらない反応があるのは、その反応において自由エネルギー変化が負にならないためである。補足:熱力学第三法則

絶対零度では完全結晶(分子欠落や不純物のない結晶)の取りうる配置は1通りなので、エントロピーは0と考えられる。故に、次の法則が成り立つ。

熱力学第三法則

完全結晶のエントロピーは絶対零度下では全て等しい。


この法則は「有限回の操作では絶対零度に到達することはできない」という定理と同値である。

熱力学は、第零法則(「物体AとB、BとCがそれぞれ熱平衡ならばAとCも熱平衡にある」という法則)、第一法則、第二法則だけでなくこの第三法則を加えて初めて完成する。

化学反応と光

光は電磁波の一種であり、波長の長い方から電波、赤外線、可視光線、紫外線、X線、γ線に分けられる。波長が短いほどエネルギーは大きくなる(高等学校物理/原子物理#光の粒子性を参照)。

なお、虹の七色は赤橙黄緑青藍紫せきとうおうりょくせいらんしである。化学発光

反応物と生成物のエネルギーの差を光エネルギーとして放出する反応を化学発光化学冷光化学ルミネセンス)という。

  • ルミノール反応

塩基性条件下でルミノール(C8H7N3O2{\displaystyle {\mathrm {C} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{8}}\mathrm {H} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{7}}\mathrm {N} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{3}}\mathrm {O} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}}})を過酸化水素などを用いて酸化すると、青く発光する。遷移元素の錯体が存在すれば強く反応するため、血液の検出に用いられる。

  • 蛍光物質

蓚酸ジフェニル(C14H10O4{\displaystyle {\mathrm {C} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{14}}\mathrm {H} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{10}}\mathrm {O} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{4}}}})は、酸化されるときにエネルギーを蛍光物質に与え、発光させる。ケミカルライトに用いられる。


炎色反応も化学発光の一つである。ホタルやクラゲなど、生物による化学発光は生物発光という。(高等学校 生物/効果器も参照。)光化学反応

化学反応を起こさせるのは熱だけではない。可視光線や紫外線などの吸収により起こったり促進されたりする反応を光化学反応という。

  • ハロゲン化銀の感光

ハロゲン化銀は光に当てると銀を遊離する(感光性)。歴史的には臭化銀AgBr{\displaystyle {\mathrm {AgBr} }}(Silver Bromide)が写真に用いられ、有名人の写真を意味する「ブロマイド」の語源となっている。

  • 水素と塩素の爆発

水素と塩素の混合気体に強い光を当てると、爆発的に反応して塩化水素を生じる。

  • ベンゼンの付加反応

ベンゼンC6H6{\displaystyle {\mathrm {C} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{6}}\mathrm {H} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{6}}}}は付加反応が起こりづらいが、紫外線を照射すると塩素原子が付加してヘキサクロロシクロヘキサンC6H6Cl6{\displaystyle {\mathrm {C} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{6}}\mathrm {H} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{6}}\mathrm {Cl} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{6}}}}を生じる

  • 光触媒

光が当たると触媒の働きを示す物質を光触媒という。例えば、チタニア(酸化チタン(Ⅳ))TiO2{\displaystyle {\mathrm {TiO} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}}}に酢酸などの有機化合物が付着した状態で光を当てると、有機化合物が二酸化炭素と水に分解される。チタニアは家屋の外壁や太陽電池に用いられている。2024年現在、チタニアと酸化タングステン以外の光触媒は未だ実用化に至っていない。

  • 光合成

植物は光エネルギーを利用して、二酸化炭素と酸素からグルコース(葡萄糖)C6H12O6{\displaystyle {\mathrm {C} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{6}}\mathrm {H} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{12}}\mathrm {O} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{6}}}}を合成する。この反応は、6CO2(g)+12H2O(l)C6H12O6(s)+6O2(g)+6H2O(l){\displaystyle {6\,\mathrm {CO} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}{\mskip {2mu}}(\mathrm {g} ){}+{}12\,\mathrm {H} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}\mathrm {O} {\mskip {2mu}}(\mathrm {l} ){}\mathrel {\longrightarrow } {}\mathrm {C} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{6}}\mathrm {H} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{12}}\mathrm {O} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{6}}{\mskip {2mu}}(\mathrm {s} ){}+{}6\,\mathrm {O} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}{\mskip {2mu}}(\mathrm {g} ){}+{}6\,\mathrm {H} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}\mathrm {O} {\mskip {2mu}}(\mathrm {l} )}}ΔH=2803kJ{\displaystyle \Delta H=2803\mathrm {kJ} }と書き表される。多数のグルコースが繫って高分子化合物を形成すると、澱粉となる。(高等学校生物/光合成も参照。)


日焼けやプラスチックゴミの分解によるマイクロプラスチックの発生も光化学反応によるものである。

補足:熱化学方程式

2022年度以前の課程では、長らくエンタルピーではなく熱化学方程式熱化学反応式)が用いられていた。

熱化学方程式では、化学反応式中に等号『=』を用いるほか、熱量を反応式に足して記していた。

例えば、光合成の反応は熱化学方程式では以下のように書き表される。6CO2(g)+12H2O(l)+668kcal=C6H12O6(s)+6O2(g)+6H2O(l)

{\displaystyle {6\,\mathrm {CO} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}{\mskip {2mu}}(\mathrm {g} ){}+{}12\,\mathrm {H} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}\mathrm {O} {\mskip {2mu}}(\mathrm {l} ){}+{}668\,\mathrm {kcal} {}={}\mathrm {C} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{6}}\mathrm {H} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{12}}\mathrm {O} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{6}}{\mskip {2mu}}(\mathrm {s} ){}+{}6\,\mathrm {O} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}{\mskip {2mu}}(\mathrm {g} ){}+{}6\,\mathrm {H} {\vphantom {A}}_{\smash[{t}]{2}}\mathrm {O} {\mskip {2mu}}(\mathrm {l} )}}

 ※1 kcal = 4184 J

ここで、エンタルピー変化を付した反応式とは熱量の符号が逆になっていることがわかる。これは、エンタルピー変化を付した反応式では系の物質の視点に立っているのに対して、熱化学方程式は外界の観察者の視点に立っているためである。

よって、2022年度施行課程以前の教科書・参考書を使用する際は注意が必要である。

熱化学方程式が廃止された理由としては、熱化学方程式は『日本の高校でしか通用しない概念』であったことが挙げられる。大学や海外ではエンタルピーを用いるのが普通なので、そこで熱化学を学習すると先述の通り熱量の符号が逆転してしまい、学習者に大きな混乱を与えていた。また、化学の様々な分野がある中で反応式中に『=』が登場するのは熱化学方程式だけであったので、他の分野との整合が取れていなかったのも一因と考えられる。

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